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東京高等裁判所 昭和60年(行コ)82号 判決 1986年7月03日

控訴人 山口錦璋

被控訴人 相模原税務署長

代理人 大沼洋一 三浦道隆 ほか二名

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

〔申立〕

控訴代理人は「原判決を取り消す。被控訴人が控訴人に対し昭和五五年一二月二六日付けでした昭和五四年分所得税についての昭和五五年七月一一日付け更正の請求におけるみなし法人所得金額のうち不動産所得二〇〇〇万円の減額部分は更正すべき理由がないとする処分を取り消す。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は主文第一項同旨の判決を求めた。

〔主張〕

当事者双方の主張は、次のとおり付加、訂正するほかは、原判決事実摘示中の「第二 当事者の主張」のとおりであるから、これを引用する。

一  原判決六枚目表末行から裏一行目の「原契約の全部若しくは一部は」を「原契約は」と改める。

二  同八枚目表一〇行目の「本件年分」を「本件の昭和五四年分」と改める。

三  同一〇枚目表四行目の冒頭から一一枚目表二行目末尾までを次のとおり改める。

「控訴人に対する課税額は、本件更正請求が認められず、昭和五五年以下の必要経費として処理をしたのでは累進税率の差異により、所得税において八〇〇万円以上、住民税も加えると一〇〇〇万円以上の増額となるところ、このような結果をもたらす所得税法五一条二項、一五二条、同法施行令一四一条三号、二七四条は国民の公平かつ平等な租税負担の原則に反し、憲法一四条に違反するものであり、仮に、これら規定自体が憲法に違反しないとしても、右のように税額に著しい差が生ずる場合にこれら規定を適用するならばその結果は明らかに合理性を欠くから、これら規定を本件に適用することは憲法一四条一項に違反することになる。

また、所得税法施行令二七四条一号は、個人事業者にあつては、前期に無効な行為によつて生じた経済的成果がその行為の無効であることに起因して失われても、当期の必要経費等に算入し、益金を減少させる事業費の計算慣行があるから、税務計算において特にこれに変更を加える必要はないとするもので、既に確定した決算を修正する必要がないから、納税者にとつても税務官庁にとつても一般的には望ましい処理の方法ではあるが、本件においては、そのような処理を行うことによつて前記のように控訴人の税額が著しく増大するのであり、右のような不公平は、法が更正の請求を認めている以上、容認されうる限度をはるかに超えるものであるから、このような場合には所得税法施行令二七四条一号の括弧書きを適用することは許されない。」

〔証拠〕<略>

理由

当裁判所も控訴人の本件請求は理由がないものと判断する。その理由は次のとおり付加、訂正するほかは、原判決理由説示のとおりであるから、これを引用する。

一  原判決一二枚目裏五行目の「課税標準、税額等に変動のない」を「税額の過大が生じていない」と、九行目の「前記のとおりであるから、原告には」を「前記のとおりであり、原審における<証拠略>によれば、控訴人は日本国内に居住し、国内に永住する意思がある者と認められるから、控訴人のすべての所得に対しては」とそれぞれ改め、末行の「一号」の次に「、二条一項三、四号」を加える。

二  同一三枚目表三行目の「返還したとしても、」を「返還したとした場合に、所得税法上」と、五、六行目の「は所得税法の定めるところによることになる。」を「検討する。」とそれぞれ改め、末行の「、事業所得の金額」、同裏七、八行目の「(なお、山林所得の場合については、同法七条二項参照。)」、九行目の「、事業所得又は山林所得」をそれぞれ削除する。

三  同一四枚目表二行目の「と定め、」を「旨定め、」と改め、四行目の「、事業所得又は山林所得」を削除し、七行目の「と定めている。」を「を掲げている。」と改め、同裏四行目の「行為がなされた日」の次に「と損失の発生した日が同一年でない限り無効な行為がなされた日」を加え、六行目「そこで、」を「もつとも、」と改める。

四  同一五枚目表三行目の「定め、右『政令で定める事由』として、」を「定めているが、右『政令で定める事実』としては、」と、六行目の「事業所得の」から七行目の「金額を除く。」までを「事業から生じた不動産所得の金額を除く。」と、一〇行目の「なる旨定められたのである。」を「が掲げられており、これによれば、事業から生じた不動産所得の金額等の計算の基礎となつた行為の無効に基づく経済的効果の喪失は右『政令で定める事実』から除外されているものであることが明らかである。」と、末行の「事業所得の金額」から同裏一行目の「山林所得の金額」までを「事業から生じた不動産所得の金額等」とそれぞれ改め、同裏二行目の「着目した」の次に「ものである」を加え、末行の末尾の次に行を改めて次のとおり加える。

「なお、控訴人は所得税法五一条二項、一五二条、同法施行令一四一条三号、二七四条一号によつて本件更正請求が認められないとすると、控訴人の税額は所得税において八〇〇万円、住民税も加えると一〇〇〇万円以上増額するから、右のような不公平な結果をもたらす右規定は憲法一四条に違反し、仮に違反しないとしても、右規定を本件に適用することは憲法一四条に違反する旨主張するが、仮に昭和五四年の所得計算において必要経費の算入を認めるか否かによつて、控訴人の税額にその主張のような差異が生じるとして、その原因はたまたま控訴人の昭和五四年の所得と同五五年のそれとの間に大きな差があつたことから生じたにすぎないところ、事業から生じた不動産所得等については必要経費をその発生した年度において算入することとしたことには前記のような合理性があり、立法府の裁量の範囲内に属すると解されるから、右規定自体は違憲ということはできない。また、税法のような技術的性質の高い法規においては、偶発的な事情のいかんによつて特定の規定の適用の結果として定まる税額に相当の差異が生ずる場合があるのはやむを得ないところというべきであり、単に結果のみの観点から同一の規定の適用を二、三にすることは法的安定を害し徴税の公正を得るゆえんではない。右規定の適用に関する憲法違反の主張も採用することができない。

従つて、仮に控訴人主張のように原契約が錯誤により無効であるとしても、所得税法上は原契約が締結された昭和五四年分の控訴人の課税標準、税額には何らの影響も及ぼさないから、控訴人の錯誤を理由とする請求は、右の点において既に失当である。」

五  同一六枚目表七行目の「土地を」の次に「同銀行相模台支店の駐車場として」を加える。

六  同一七枚目表七、八行目の「本件土地の昭和五二年度の鑑定評価額」を「本件土地について昭和五二年に行われた鑑定の評価額」と改める。

七  同一八枚目表八行目の「賃料」を「月額賃料」と改め、同裏四行目の「横浜銀行に対し、」の次に「同銀行相模台支店の建物の敷地として」を加える。

八  同二〇枚目裏一、二行目の「この点は」を「右契約変更の法的性質の点は」と、末行の「通則法二三条二項本文」を「通則法二三条二項柱書」とそれぞれ改める。

九  同二一枚目表四行目の「同項本文」を「同項柱書」と、六行目の「一年後」を「一年を経過した後」とそれぞれ改め、七行目の「明らかである。」から同裏五行目末尾までを次のとおり改める。

「明らかであるところ、本件においては、原契約の変更契約が昭和五五年七月一〇日になされたことは前記認定のとおりであり、同年九月一〇日の経過によつて通則法二三条二項三号に規定する期間が満了するのであつて、右満了の日は同条一項の規定する控訴人の昭和五四年分の所得税の法定申告期限から一年が経過する昭和五六年三月一五日よりも前に到来するから、通則法二三条二項三号は本件に適用されず、控訴人の同号を理由とする更正の請求も許されない。

しかしながら、同条二項において、前記のように、同項による更正請求のできる期間の満了する日が同条一項の更正請求のできる期間の満了する日よりも後でなければ二項による更正の請求を認めないとした趣旨は、同条一項の期間内であれば一項による更正の請求が認められることによるものと解するのが相当であるから、同条一項に規定する更正の請求の要件のうち一号の『課税標準等若しくは税額等の計算が国税に関する法律の規定に従つていなかつたこと又は当該計算に誤りがあつたことによつて、税額が過大となつた場合』のうちには同条二項が規定する場合も含まれていると解するのが相当である。そこで、控訴人の本件更正の請求が通則法二三条二項三号の要件に合致するか否かについて判断するに、同法施行令六条一項二号は同法二三条二項三号の『その他当該国税の法定申告期限後に生じた前二号に類する政令で定めるやむを得ない理由』として『その申告、更正又は決定に係る課税標準等又は税額等の計算の基礎となつた事実に係る契約が、解除権の行使によつて解除され、若しくは当該契約の成立後生じたやむを得ない事情によつて解除され、又は取り消されたこと』と規定していることからすると、契約が申告期限後に合意解除された場合には、右合意解除が、法定の解除事由がある場合、事情の変更により契約の効力を維持するのが不当な場合、その他これに類する客観的理由に基づいてされた場合にのみ、これを理由とする更正の請求が認められるものと解するのが相当である。

しかして、原契約の変更は結局控訴人の税法の解釈についての誤解に基づいて締結した原契約を変更したものであつて、右のような納税者の主観的事実のみでは右の『やむを得ない事情』があつたということはできない。そして、右のとおり更正請求が認められない以上、合意解除による利得の返還もまた返還の日の属する年の必要経費に算入されるべきものであつて、契約がなされた日の属する年がこれと同一でない以上その年の課税標準等には何らの影響を及ぼすものではないことは前記錯誤に関して説示したところと同一である。

従つて、右の点においても控訴人の本件更正の請求は理由がない。」

以上のとおりであるから、控訴人の本件請求は理由がなく、これを棄却した原判決は相当であり、本件控訴は理由がない。よつて、本件控訴を棄却することとし、訴訟費用の負担について、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法九五条、八九条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 中島一郎 加茂紀久男 片桐春一)

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